満天の星空の下のモンゴルゲル

15 最小読み取り · Aug 09, 2022

Nomad

私は都会の生活が好きです。今、こちらをご覧になっているあなたも私の仲間かもしれません。それでも、私たちは隙間なく立ち並ぶビルや市内の騒音から少しでも離れたいと願ったりします。そんな願いを叶えやすい夏が来ました。アドベンチャーで溢れるこの時期にいつもの場所を離れ、新しい感性や感覚を求めてみませんか。

これは5つ星ホテルではありません。50億もの星が輝く夜空の下に建つゲルです。

ゲルを建てる、たたむ風習があります。

自然に優しいこの住居ができたのは、少なくとも3000年前だと学者や研究者は見なしています。中央アジアの遊牧民が何世紀にもわたり、ゲルで生活をしてきました。現在のゲルの形は13世紀のものがほぼそのまま残っています。つまり、13世紀からゲルはほとんど変わっていません。内側からのゲル組み立てるのにもたたむのにも時間がかからない上、どんな車でも引っ越せます。3、4人いれば、2時間ぐらいで建てられるのがゲルです。丸い形はモンゴルの厳しい気候に適しています。かぶせているフェルトは通気性、断熱性に優れているため、どの季節でも快適です。安定感があるので地震や猛風、自然災害に強いです。ゲルには上に一つだけ窓があり、トーノと呼びます。トーノからこぼれる日差しで時間を理解し、日常生活で使ってきました。例えば、日が床の間に差していたら正午です。長年かけて遊牧民の日常から生まれた知恵や工夫の結晶となるゲルが、いかに便利で優れているか述べればきりがありません。 

内側からのゲル

セダン車にも楽々と積める折り畳み式ゲル「アヤンチン」  

ゲルを建てる、たたむしきたりがあります。19世紀の終わり頃、世界中にゲルに住む民族がたくさんいました。ロシアではハルミック族、トワ族、タタール族、中央アジアのカザフ人、トルクメン人、ウズベク人、タジック人、キリギス人の一部が今でもゲルに住んでいます。ゲルのパーツ1つ1つがモンゴル人の文化、伝統を物語ります。門をくぐるところからしきたりがあります。床の間は尊重される部分で、仏壇やモンゴル風の物入れを置きます。モンゴルではお客さんを大事にもてなしますが、主人の誘いなしで床の間に行くのはご法度です。また、2本ある縦柱はゲルを支えている主要部分であるため、持ったり寄りかかったりしないようにします。いつかゲルを訪れることがあれば、ぜひ思い出してみてくださいね。

ゲルは、男性側と、女性側に分かれています。入口扉から入って右側は、女性、左側は、男性が座る場所と決まっています。左手に台所用品、飲料水入れ、馬乳酒入れ、右側には鞍、馬のくつわ、足止めなどがあると決まっています。ゲルには部屋や区切りがありませんが、物の置く場所がわかりやすく区分されているため、非常に整理されています。ゲルは骨と被せ物から成ります。骨には横柱、縦柱、トーノ、壁、床、門が入ります。被せ物にはウルフ(訳注:トーノの外側に被せる温度や日差し調整用の四角いフェルトで、白い布袋に入っています。   

2013年にユネスコがモンゴルのゲルを無形文化遺産に登録しました。

ゲルには、屋根や壁の内外側用の布、フェルトがあります。ゲルの大きさは壁の数で測り、4壁、5壁、8壁、10壁のゲルがあります。壁同士を紐で繋ぐ仕組みなので、足したり減らしたりしてゲルの大きさを調整できます。ただ、壁は横柱とトーノに繋ぐので、そちらとも合わせる必要があります。

折り畳み式ゲル

時代とともにゲルも変わり続けています。一新されるのではなくより便利に活用するための変化です。ゲルの伝統を守りつつ、持ち運びやすく、セダン車の荷物スペースに収められる折り畳み式ゲルをD・バトソーリ氏が開発しました。こちらの商品はゲルの通常のサイズより4,5倍小さく、バッグ2つに収納できます。重さは50キロです。テント替わりにキャンプで使えます。中で焚き火を焚いたり、家具も置いたりすることができることがテントと違います。テントより快適で、10人入れます。

都市化が進むほど人々は自然をより懐かしみ、日常の中で自然を感じようと試みるようになりました。このこともあり、モンゴルのゲルが海外から注目を浴びています。米国「パシフィック・ユールツ・インク」社がゲルを欧米仕様に開発し、看板商品として売り出しています。近代的な建物がどんなに増えてもゲルの存在は消えることはないでしょう。かえって、より使いやすいものにどんどん開発されていくことでしょう。異文化をより深く理解するにはその土地でのありふれた日常を味わうのが一番です。この夏は世界で最も多くのゲルが建つウランバートル市にぜひ足を運んでみてください。きっと心底から平穏を感じると思います。   

「モンゴルのゲルに滞在すると、なぜ世界中の人々が、通常正方形のアパートに住んでいるのか不思議に思うでしょう。初めてゲルの敷居を越えてゲルの左側に座るように誘われた時から、私は感動しました。円形の空間は本質的に神聖で自然な感覚を与えてくれました。   

フェルトの心地よい香り。泡立つお茶の音と円形の天井から差し込む太陽の光はすべて、心を安らぎと温かさで満たしてくれます。家の貴重な所有物をきれいに収めた装飾的なトランク、馬の毛の結び目の象徴、または多くの迷信など、私がゲルについて好きな細部のすべてについて叙情的に美しさく表現することができました。   

私たちは、子供たちのための教室、自然の中での隠れ家、避難所として引き続き、使用します。私たちの生活にゲルを持っている幸運な私たちにとって、普遍的な調和の喜びと、心地よい温かさを言葉として表現するのは語彙が足りません」 

カリーナ・モートン
旅行者、人類学者